協会の活動状況・会員からの寄稿
SYMPOSIUM_7

アメリカ・イスラム・中国  新政権の日本外交を語る
9・11から5年——激動の国際情勢を多角的に分析


 ありがとうございました。さて、今までの話を聞いていると、今度の新政権は中国・韓国を中心として、まずアジアへ行くという形から、ある意味でいい出だしを踏んだ。しかし、行くだけでなく、やはり結果をつくる、チャンスを掴み取らなきゃいけないという話が、田中さんや五百籏頭さんからありました。
では、五百籏頭さん。今回の滑り出しを歴史の中に位置付けてこのチャンスをどう掴み取るべきか、総括していただけますでしょうか。

五百籏頭 ありがとうございます。アジアとの関係というとすぐに「靖国」であり、あの戦争の時代ということになります。そしてこの戦争の時代は、確かに日本にとって歴史の中でいちばんまずい部分にのめり込んだ時代であり、その意味では「申し訳なかった」ということがあると思うんです。ただ、日本人はそのことばかりを見ていてはいけない。逆に日本は、世界史の中で今まで、どれほど立派なこともやってきたかという“穏やかな自信”を持つべきだと思うんです。まず、近代化の成功。近代の産業革命以後のメチャクチャ強い西洋文明に対して、非西洋社会はどこも対峙できなかったなか、日本だけがそれをやってのけた。近代化を成功させて、“西洋の世界史”を世界の世界史に転換させる、偉業を成し遂げた。これは大変な実績です。それがあってこそ、今の東アジア諸国、中国も含めてのすごい流れが可能になったわけです。
 戦争のときは非常にまずかった。また戦前は、いいことも、悪いこともあって、出入りの多いゴルフみたいだったけれども…。戦後の日本は平和的発展主義を採り、世界でもっとも格差の少ない豊かな社会を築いた。その大変な実績によって、大きな世界環境の変化をもたらしてきた。加えて、民主主義社会を確立した。今日、国分さんから、砂漠化している中国から来た人は皆さん、日本を見て「感動する」と聞きました。「日本では緑がこんなに多くて、自然が美しく、また社会がその自然と調和していて、実に魅力的である」と。つまり、日本はそういう社会の美しさを持ちつつ、高い技術力・経済力をもち、民主主義を確立している——これは非常に魅力的な社会です。
 さっきも言いましたが、もちろんその前には、いいことも悪いこともありました。しかし、戦後まで合わせたら、やはり大変な実績である。ところが、日本人自身はその実績をほとんど意識せずに、妙なコンプレックスだけを持っている。だから、悪いところはもう“悪い”と認めてしまったらいいんです。「失礼しました」と。しかし、それは我われがやったことではなく昔の世代がやったんですから、その意味では、軽く会釈をして「大変失礼いたしました」とひと言で済ませるのがいい。そのうえで「ところで、共同利益案件ですが…」と話を運ぶべきなんです。
 つまり、我われは実績を持っていますから、その穏やかな自信があるからこそ、それに基づいて田中さんが言われた「創造的外交」を是非やってほしい。戦後の我われは、創造的外交ということを横に置きすぎました。でも、今はこれだけのブランド、実績があります。日本がやれば世界がアクセプトする度合いは、我われが思っている以上に大きいでしょう。
 それから、もうひとつは「良き世話役」になることです。私は不思議に思うんですけど、皆さんは日本社会、あるいは自分の職場や地域などで、実に立派に良きリーダーをやっておられる。また、その良きリーダーとは何かというと、決して自分の力をひけらかしたり、威張りくさって胡坐をかくような人ではない。むしろ、良き世話役ができる人こそが立派なリーダーだと実は皆わかっている。したがって、日本がこれを発揮すれば、これは大変な力、しかもブランドを土台にした実に素晴しい創造的外交ができるだろうと思うんです。
 それをひと言でいえば、私は「日米同盟+日中協商」だと思っています。日米同盟は大変大事です。バイタルです。ですから、それを大事にしながら日中の間で「協商」をする。アンタント( entente:国家間の協商)で、具体的な合意をつくる。それが何を意味するかというと、両国は戦争にのめり込むのではなくて、「経済的に協力してやっていく」というインプリケーションをオーラとして漂わせるんです。たとえば東シナ海の問題なども、じゃあそれを日本が開発したかったのかといえば、ほとんど忘れていて放っておいたのだと思うんです。ところが、中国がやり出すと「ストローで吸い上げられている」と反応する。だからもう、何かの拍子に船同士がぶつかったから戦争になったとか、そういう馬鹿なことはしないほうがいい。それよりは、協同で開発するという合意をつくる。両国は戦争をするのではなく、協力してやっていく。そういうアンタント(協商)の関係を日中の間にもつくる。これが決定的なポイントです。そしてこれができれば、日本は大きなスプリングボード(飛躍への出発点)を得るだろうと思います。


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2006年12月31日(掲載)
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