協会の活動状況・会員からの寄稿
SYMPOSIUM_7

アメリカ・イスラム・中国  新政権の日本外交を語る
9・11から5年——激動の国際情勢を多角的に分析


 ありがとうございました。では酒井さん、先ほども言いましたが、今、中東が世界の波乱要因であることは間違いなく、いずれは日本もまた巻き込まれるのだろうと思うんです。そのとき、日本の中東外交に期待することは何でしょうか?

酒井 先ほど、国分さんに中国の例を出していただいて「あっ、これは数年前までイランで言われていたことと同じだなあ」と、本当にそう思いました。今のアハマディネジャド政権に対しては、皆もう匙を投げているところがありますけど、前の“文明の対話”を主張してきたハタミ政権のときには、日本は「イランをどうやったら中国にできるか」と、要するに「形はイスラム政権だけれど、中はどんどん改革・開放路線でいける国にするにはどうしたらいいか」と一生懸命やってきたと思うのです。しかし残念ながら、今それをアハマディネジャド政権の中でやるのは難しいと思いますが。
 では「イスラム政権とどう付き合うか?」ということですが、先ほど、世界中どこであれ、国家が破綻して戦争や内戦が起こると必ず、イスラム勢力が伸びてくるという状況があると申し上げましたが、もうひとつの法則は、そのときに出てきたイスラム勢力が“外から潰されたり、弾圧されたり”すると、これがまた分裂して「さらに過激なグループが出てくる」ということがあります。逆に言うと、そこで上手く措置を間違えなければ、まさに文化革命の後、どうなるかわからない状況だった中国を上手く引っ張って、穏健な方向に持っていったのと同じようなことができるかもしれない。イスラム勢力についても、たとえパーセンテージは低くても、その可能性はあると思う。その意味では、イランであれ、パレスチナであれ、レバノンであれ、イスラム勢力が出てきたときに日本は、「あぁ、どうしよう」と立ち止まるのではなく、まさに中国のときの経験を生かして、それに“どう対応するか”というところに力を注ぐのが今後の中東外交の課題の中心だと思っています。

 なるほど。西川さん、EU というかヨーロッパはアメリカとの付き合いは大事にしますが、日本のような追随型ではなく、アメリカ中心に動きながらも抵抗するところは抵抗するというところがあります。とくにフランスはそれが上手です。また、日本もあまりに追随しすぎるとフラストレーションを感じます。逆にその揺り戻しで、おかしなナショナリズムが出てくることもあります。その意味では、ヨーロッパのしたたかな外交ノウハウを教えてもらいたい(笑)。

西川 ヨーロッパ共同体(欧州連合:EU )をつくり始めた大きな役割のひとつは、実はヨーロッパのナショナリズムを押さえることでした。そのため「欧州市民をつくる」という言葉が繰り返し、繰り返し使われてきました。またその裏側にあったのは、「ヨーロッパのもつナショナリズムが何度もこのヨーロッパを戦乱の地に陥らせた」という教訓です。その意味では多分、東アジアに同じ思想基盤に立つ「東アジア共同体」ができたときには、東アジアでも“ナショナリズムを如何に抑制するか”という部分がおそらく意識されると思います。そのときは東アジアでもナショナリズムがいろんな形で吹き出るだろうと思います。ただ当面は、経済共同体で行くわけですが…。
 それから、日本もヨーロッパも、言ってみれば自国の防衛力による“自国防衛を放棄した国”です。つまり、日本はそもそも自衛隊で自分の国を守ることはできないわけですが、ヨーロッパにおいても事実上、すでに自分の国を自分の力で守ることは難しい。あの核戦力を持つフランスでさえ、核戦力はあくまで象徴であり、自らの防衛力で自国が守れるとはもはや思っていない。では紛争はどうやって解決するのか?“多国間枠組み”で解決していこうと。その意味では、どちらも自国防衛は放棄しているわけです。日本も戦後の生き方を見れば、アメリカの核の傘はあるにせよ、国際政治においては多国間枠組みによる解決という状況です。
 では、どこの国が「自らの防衛力で自国を守る意思」を持っているかというと、まずアメリカ。そして中国、ロシア、インド、ブラジルなどが未だ自国防衛を掲げている。また、その逆(多国間枠組みでの解決)は日本、欧州、カナダ、オ−ストラリア、ニュージーランドまで入ると思います。つまり世界には「自国防衛に軸足を置いている国々」と、それを放棄した「多国間枠組みの国々」という図式が未だ存在している。
 そして日本は、もちろんアメリカが機軸ですので、その機軸を維持しながら多国間枠組みでの問題解決を追究していく。しかし、そのときにヨーロッパとも協力し、カナダとも協力していくということで、ある意味では、アメリカを機軸にしつつも“日本的な裁き方も生まれてくる”という気がしています。


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2006年12月31日(掲載)
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