協会の活動状況・会員からの寄稿
SYMPOSIUM_7

アメリカ・イスラム・中国  新政権の日本外交を語る
9・11から5年——激動の国際情勢を多角的に分析


7 アジア経済共同体は実現するか

 時間が無くなってきましたので、最後に会場からの質問に対して、皆さんにひと言ずつお願いしたいと思います。その前にひとつだけ、西川さんにお聞きします。田中さんが先ほど「アジア経済共同体が私の夢」というように言われましたが、EU は 1950 年代以降だったでしょうか、60 年前後の鉄鋼共同体を含めて、当時は「 EU なんて、どうせ上手くいきっこないよ」と言われながらも実際に出来て、EU の通貨ユーロも高くなり、段々とそれなりのパワーを持ってきました。そして西川さんは、まだEUができる以前からヨーロッパにおられたと思いますが、その存在についてどうご覧になってきたのでしょうか? アジアにも将来そういう共同体ができるかもしれない、ということも含めて、お願いいたします。

西川 ヨーロッパ共同体にはいろいろな段階がありましたからひと言というわけにはいきませんが、最初はまず「経済」の建設でした。そして次に「価値」の建設。今で言うなら、自由民主主義や人権などについて共通の価値感を持っている国に対して EU への参加を認めるという。そして“同じ思想基盤に立つ”という意味では、やはりアジアの場合は思想の違いが大きいですから、それこそ中国のように社会主義の国もまだありますので、そうした共通性はまだつくれない。ならば、ともかくプラズマティズムで、とりあえず経済が一致するところでつくっていこう、というのがひとつの流れだと思うんです。
 2 ヵ月ほど前に「日韓フォーラム」というのが開かれ、ここにおられる田中さんと五百籏頭さんともご一緒したのですが、そこである講演者のお話しを聞いて、私は新鮮な感覚を覚えました。どんなコメントだったかと言うと、日本は今「ポストモダンの時代」であると言ったんです。つまり価値の相対化の時代に入ってから、かれこれ 10 年、20 年くらいが経った。その意味では進歩の思想から“脱却”した、もしくは“別の局面”に入った。あるいは“価値が陳腐化”ということも言えるのかもしれませんが、とにかく日本社会はすでにそういう時代であると。そして韓国の社会を見ると、まだ「モダンの時代」だと。つまり進歩に対する価値、民族に対する価値で今の韓国の政治の気風を見てみると、日本でいう 60 年代の安保闘争の時代、左翼が言論を圧倒していたような時代にまさに今の韓国が在るという感じがします。また、中国はそれよりもさらに遅れているんじゃないかと思います。
 そういうことで考えると、たとえば中国や韓国が靖国云々を言ってくると、我われはある種“暑苦しさ”を感じるのですが、それは歴史認識云々から来るというよりは、むしろ“同時代の意想の違い”によるズレではないかと思うんです。したがって、この意想の違いが同じ意想になったとき、そのときが東アジアに共通の思想基盤が生まれるとき、という感じがいたします。
 したがって、そこに行くまではおそらく「ポストモダン時代にある日本」と「モダン時代にある韓国」、そして「韓国よりさらにもう少し遅れた時代にある中国」が 3 者それぞれ、各々の意想のズレを抱えたままで「ともかく『経済』を一緒に建設していきましょう」ということだと思います。そうした流れのなかで徐々に韓国、中国がどう変容していくのかはわかりませんが、いずれは、彼らも価値の相対化の時代に入っていくだろうと思います。そのときにはヨーロッパの EU と同じように、ある種共通の思想基盤の上に立つ「東アジア共同体」が出来るのではないでしょうか。


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2006年12月31日(掲載)
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