SYMPOSIUM_2
アメリカ・イスラム・中国 新政権の日本外交を語る
9・11から5年——激動の国際情勢を多角的に分析
田中
中国を中から見ている立場ではないので、これは私が見る中国の“外から見たときの図式”ですが、私は、必ずしも中国は外交が先にくるわけではないと思っています。中国はやはり自国の統治が第一で、その統治のために一定の経済成長というのをどうしても確保しなくてはいけない。つまり、そのために“どんな外交をするか”というロジックが組み立てられる、と思うんです。
国分さんが言われた“権力闘争”もあるけれど、そこに根付いているのは国を統治できるか否かということ。だから中国は、年 9 % の成長を続けていかなければいけない…。もちろん、数字は 9 % なのかどうかはわかりません。ただ、少なくとも、そうでなければ国の統治ができないと思っていることは間違いない。だから、それを可能にするような国際関係を築きたい。そのためには周りの国との関係も考えるし、ロシアとの関係も調整する、あるいは上海協力機構や ASEAN との関係も同様で、さらにその最大のものが“アメリカとの関係”というわけです。理由は、自国の経済改革・開放路線を阻害する最大の要因はやはり“大国との関係”だからです。
ですから、結果的には国分さんと同じですが、それを“外から見る”と、私はやはり中国のバリアフリー的な全方位積極外交は“自国の統治”から出発していると思います。
したがって日中関係は、大きく改善する余地があります。私は学者ではなく、外交官だったのでリアリストです。また、その意味では、イデオロギーやバリューというより、現実の国益を担保するために「何をどう利用すべきか?」を考えて、中国の考え方や実際に置かれている環境を客観的に見ると、日中関係は中長期的につくり変えられる好機にある、と私は思います。
国分
いまの話について、よろしいでしょうか? 先ほど、まさに私はそのことを言いたかったのですが、時間が長くなるので止めました。非常に面白い中国の「アンケート調査」があるので、ぜひ紹介したいと思います。胡錦濤がアメリカに行く前に行った調査ですが、まず「アメリカが好きか、嫌いか」という質問に対して、結果は「好き( YES )」と答えた人が 80 % 近くいました。ところが別の質問項目で、「アメリカは中国を封じ込めようとしているか?( YES か、NO か)」という問いに対しては、58 % の人が「その通り( YES )」と答えました。この結果をそのままくっ付けますと、まるで中国は“アメリカが好きだから、封じ込めてください”というように見えてしまう(笑)。つまり、このあたりに中国の複雑な感覚があるわけです。
まさにいま田中さんが言われたように、中国の経済成長は輸出で保たれています。事実、輸出の 60 % は外国系企業ですし、中国全体の税収の 3 割は外国系企業が支払っているとも言われている。とんでもないぐらい外資依存型の経済成長が甚だしい、というわけです。そして、その根幹がアメリカであることは間違いない。そういう意味では、中国でいま沸き起こっている議論はすごく繊細です。何かと言うと「日米経済摩擦で日本は一体どうなったか」という議論です。アメリカの圧力を前に日本は、アメリカ国債を買わされ、アメリカ製品を買わされ、そしてプラザ合意では円高となり、結局はバブルを生んで、「日本経済はああなったじゃないか」と。つまりステイクホルダーという議論ですが、アメリカ経済を支える日本に代わって「中国がそのステイクホルダーになるのか」という議論が、実は中国国内にものすごくあります。
ちょっと行き過ぎだと私は思いますが、いずれにしても中国が完全に外資依存型経済になっている状況のなかで、実際「アメリカに正面から楯突くことができるか?(できない)」という現実があるわけです。このあたりのもどかしさというか、アメリカに対する感情は結構複雑です。それが、先ほどのアンケートの答えにも表れたというわけです。 しかし、中国の街を歩けば若者たちが英語で喋っているし、とにかく英語ができなければ生きていけないという状況があります。そのため幹部の子弟はほとんどがアメリカに留学している。たとえば、中国で今いちばん有名な英語は「 MBA 」と「 NBA 」です(笑)。MBA とはもちろん経営学修士のことで、MBA を取っていなければもうビジネスの世界ではやっていけない。一方、NBA(全米バスケットボール協会)には姚明という中国人選手がいますから、皆そればかりを観ている。アメリカで活躍するということは、やはりプライドが上がるわけです。
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2006年12月4日(掲載)
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