SYMPOSIUM_1
アメリカ・イスラム・中国 新政権の日本外交を語る
9・11から5年——激動の国際情勢を多角的に分析
嶌
五百籏頭さん、そうした状況のなかでアメリカは一体どんなシナリオを描いているのでしょうか? ヒル国務次官補が「 6 ヵ国協議の枠内なら直接対話をしてもいい」というところまでは言っています。しかし、直接対話をしたからといって問題がすぐに解決するわけじゃない。先ほど田中さんが言われたように“包括的な枠組み”でないと解決はなかなか難しい、という気がします。
五百籏頭
そうですね。ふたつのレベルがあると思いますが、ひとつは「 NPT 体制(核兵器不拡散条約)」です。1964 年、中国が核武装をしました。丁度その頃日本は東京オリンピックに浮かれていて、そこに冷水を浴びせるように中国の核実験があって大変ショックを受けました。そして最近、そのときの外交文書が公開されて明らかになったことがあります。ご承知のように当時、池田首相が前癌症状で入院して、首相が佐藤栄作に代わった。そして佐藤首相は政権に就くや否や、アメリカのライシャワー大使と話しをして「中国の核保有は重大な問題だ。ゆえに日本としても核保有を検討する必要がある」と言った。
それに対し、アメリカはどう対応したか? 中国が核を持ち、日本も持ち…と核保有がどんどん拡がれば、世界の管理はもうやっていけなくなる。そこでライシャワー大使は「 NPT 体制」を確立しようともちかけた。“中国以後は決して許さない”という姿勢で、佐藤首相を強力に説得した。日本が危険に曝されたときは「アメリカが核の傘を差してちゃんと守る」と言い、他方で、同時に「沖縄を返還する」という。さらに日本に対し、「素晴らしい成果を挙げているじゃないか、経済的にもこんなに立派になって」と励ましたうえで、「もし日本が何らかの方法で名誉を示したいのであれば、宇宙開発がいいだろう。ロケット開発をアメリカが応援して、日本は 3 番目の打ち上げ国になってもらっていい」ということまで言い、日本が核保有へ進まないよう説得した。
その結果、日本は経済成長に成功し、沖縄返還もやるなかで佐藤首相自らが「非核三原則」を口にして、その返還にあたっては核を撤去して“核抜き本土並み”を達成することまで譲る。そうやって日本は落ち着いたわけです。ところが、アメリカは、冷戦下では核を拡散させない方式でちゃんとやってきたのに、冷戦が終わったあとは、いま嶌さんが言われたようにガタガタガタと拡散状態になってきてしまっている。
第二次大戦中にアメリカは国連をつくり、同盟関係をつくり、世界のシステムの在り方を非常に熱心にやってきた。そして 60 年代もまだケネディ、ジョンソン時代にはかなり理想主義的な秩序構築への意欲があった。NTP 対策もあった。ところが冷戦が終わり、ブッシュ政権になってからはとくに「個別的な対応でガンとやる」という流れが中心となって、システムづくりについては実は何も出来ていない、というのが外交上の大きな難しい問題だと思っています。
もうひとつは北朝鮮の具体的なレベルについてですが、アメリカは何しろクリントンが北朝鮮に一杯喰らわされた経験があるので、二度と騙されてはならない。しかも、ブッシュ政権としては「イラクを最優先したい」というのがありますから、北朝鮮問題は“二次的取扱い”にしてきた。そして皮肉なことに、その二次的取扱いの効用として 6 ヵ国協議が出来上がった。もし、アメリカ自身が北朝鮮に対して「場合によっては爆撃するぞ」とか、前面に出て対応していればこんなコンセンサスはできなかった。ところが“中国にやらせて”かつ“皆の合意がいる”というやり方を採り、アメリカはいつになく「東アジア経営」を上手くやってきた。日本とはもちろん関係がいいし、中国ともいいし、韓国とも台湾ともいい、という珍しいことが起きました。小泉政権にも「もっと中国やアジアとも仲良くしろよ」と説教するほど、アメリカは東アジア経営でよい成果を得ていた。そうやって二次的取扱いによる余裕のなかで北朝鮮を流してきた。いわば遊びのところで上手くやってきた。ところが今、それが限界にきたということだと思います。
一方、北朝鮮はアメリカが一向に自分のほうを振り向いてくれないので、最後の脅しの手段に出る。それに対し、アメリカは最初「やるならやるがいい、そんな脅しに乗らない」という感じでやっていましたが、結局は「 6 ヵ国協議では難しい…。では国連安保理でやるか」となる。しかし国連安保理だって拒否権を持っている国がどこかという点では、6 ヵ国協議のメンバーとそう違いがあるわけじゃない。結局、かなりいろいろ当たって追い詰められたところで、アメリカは本気でこれに向き合わなければいけなくなった。田中さんが言われたことに、私は同感です。
ただし、そこには 2 つの制約があります。ひとつはイラクで手足をとられている軍事上の制約、もうひとつは中間選挙の前という国内政治上の制約です。しかし、それでもアメリカは北朝鮮の問題に対応する準備を今しっかりとやることが大事だと思います。
同様に、中国もまた胡錦濤(こきんとう)政権が自分の主導権を確立し、日本との関係あるいは北朝鮮をよい子にさせる、そういう体制づくりが国内的にも厳しい状況にあります。そうした意味では今、中国も胡錦濤の主導権を確立したあとにどうするかという“準備”が大事なときだと思います。
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2006年12月4日(掲載)
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