協会の活動状況・会員からの寄稿
SYMPOSIUM_1

アメリカ・イスラム・中国  新政権の日本外交を語る
9・11から5年——激動の国際情勢を多角的に分析


 なるほど。アメリカはそういう状況を抱えているし、中国も同様で6ヵ国協議(北朝鮮を除く5者の間)での落としどころがなかなか見つからない。すると、北朝鮮がまたシビレをきらして、「こっちを向いてくれないなら実験をやる」ということも十分考えられるでしょうか?

五百籏頭 それは否定できないと思います。たとえばイラク、アメリカが2度戦争をしましたけれど、始める前は「いやそうは言っても、最後には何とか…」と思っていたのですが、ご指摘のとおり一旦、安全保障上の問題で体を張り始めたらそう簡単に退けるものではありません。その意味では、両義的状況というか、本当に危ないときは何とかするという腹を持っていることが大事です。ロジックに乗り始めたら止まらない。しかし、そこで緊張感を高めていても逆転の心積もりがあれば、それが成り立つときもある。その準備が大事だと思うんです。

 なるほど。この問題はあとでもう一度お聞きしたいと思います。
 さて田中さん、たとえば北朝鮮の問題にしても、今こうして核実験が行なわれる前にやっている議論と実際に行なったあとでは、おそらく衝撃度が全然違うと思います。先ほど「安保環境がまったく変わった」と言われましたが、国民の意識も、周りの国々の意識も相当違ってくると思います。たとえば、外交の現場ではそうしたことも想定しているのでしょうか?

田中 たとえば、北朝鮮は以前にも、日本やアメリカを含めてあれだけ諸外国から「ミサイルを撃つな」と圧力をかけられているなか、しかも空から見張られているのも承知の上で 7 月 4 日にミサイルを飛ばした。つまり北朝鮮は「自分たちは圧力には屈しない」ということをデモンストレーションしたわけです。多分「ミサイルぐらいでより極端な制裁の方向へ国際社会がまとまるわけがない」と踏んでいたのでしょう。その意味では、北朝鮮の核実験は今までの過去数年の間でも、実はいつ起きてもおかしくない状況であったのかもしれません。
 そして、彼らがいちばん怖いのはアメリカです。だから、私たちが北朝鮮と交渉したときに、もっとも使ったのも“日本の背景にあるアメリカ”という存在でした。アメリカの力を活用しながら、北朝鮮に対して「日朝関係を改善しないと具合の悪いことになる」と言う、コンテクスト(context)が予めあった。というより、それをつくったわけです。
 国家は、政策の優先度が高くないと国内がまとまりません。そして今のアメリカの最大の問題は、北朝鮮をめぐる政策にものすごい対立があること。非常に強い政策を採ろうとしている人たちと、そうは言っても戦争はできない、という人たちの間の溝が埋まらない。一方、このアメリカという国はそれでもそれをひとつにする制度、システムを持っている。ただし、それが機能するのはプライオリティの高い問題についてです。また、そういう意味では私は、いま日本に求められていることのひとつは「この北朝鮮問題に対してアメリカ政権のプライオリティを上げること」だと思っています。そろそろ腹をくくって問題解決を急がないと、もうダメという段階にきている、ということをわからせることです。
 アメリカの本当の国益と日本の国益は、おそらく位置づけが違うのかもしれません。しかし、日本にとって、北朝鮮の核兵器問題はきわめて深刻な問題です。その意味では、アメリカで北朝鮮に対するプライオリティを高めることは当然、日本政府がやらなければいけない。もちろん、日本がやるべきことはそれだけではなく、その他にもたくさんあります。だからこそ、どんな問題の場合もそういう状況をつくることが外交上必要だと私は思います。

 北朝鮮問題は単に北朝鮮だけの問題ではなく、中東にも絡み、中国にも絡み、あるいはアメリカの政策にも絡み、もちろん日本にも絡むという——「世界は連動している」ということですね。また、この問題はあとでまた出てきますので、ここで少し別の話に移りたいと思います。


←目次に戻る                  次頁に進む→
 
2006年12月4日(掲載)
このページのトップへ移動する
© Copyright 2001 - 2021 The Japan-Uzbekistan Association. All Rights Reserved.
日本ウズベキスタン協会 〒105-0003 東京都港区西新橋1-17-1-3F TEL03-3593-1400 E-mail:jp-uzbeku@nifty.com
嶌信彦のホームページはこちら