協会の活動状況・会員からの寄稿
SYMPOSIUM_1

アメリカ・イスラム・中国  新政権の日本外交を語る
9・11から5年——激動の国際情勢を多角的に分析


 酒井さんにお聞きします。もうひとつ、多分「イスラエルは核を持っている」と皆が思っていて、それに対抗するために、イランを含めた各イスラムが核を持ちたいという動きがあるように思います。中東全体から見て、酒井さんはこの核の問題をどうご覧になっているでしょうか?

酒井 そうですね。やはり暗黙の前提として「イスラエルは核を持っている」という認識が、イランに限らずアラブ諸国全体に根強くある、と思います。かつてはサダム・フセインが核開発をしようとしたし、エジプトやリビアも労力とお金さえあれば「いつでもする用意はある」と。そして今はイランがその状態にある。そしてイランはアラブ諸国ではなくペルシャ民族であるため、周辺国には「イランがそこまで強大化していいのだろうか」という危惧があるにはある。しかし、それでもイスラエルという存在を目前にすれば、自分たちも対抗上「どうしても核を持たざるを得ない」という認識が行き渡りやすい。それが現状だろうと思います。
 とくにイランの場合は、パキスタンやインドのことがありますので焦燥感が強いだろうと思います。ちなみに今、中東地域全体でイランの持つ支配力や影響力は増えています。たとえば、イラクにおいてもイランの影響力が戦後非常に強まっています。またアメリカは核の問題でイランを追い詰める、あるいはコントロールしようという思惑はあっても、イラクを舞台にやれば逆にイランから報復される。つまり、イラクをこれ以上イランに引っ掻き回わされるのは困る、ということがある。あるいは先日のイスラエルのレバノン攻撃にしても、ヒズボラが 1 ヵ月戦って被害も相当出たのですが、むしろアラブ諸国の間には「よくやった。あのイスラエルを相手によく戦った」というムードがある。イランが核を持つ、あるいはイランが強大化するということに対しても周辺国が、あるいはアメリカさえも口を出せないという状況になっている——これが中東のジレンマでしょう。

 今までは、核不拡散ということで大国だけが核を持っていた。ところがその内にインド、パキスタンが核実験をやって、最近はもうインドが核を持つことを認めたような感じさえします。そういう意味では、中東に核が拡散することに対し、中東自体は日本のような抑制的な姿勢ではなく、むしろイスラエルに対抗するためには「中東も核を持ちたい」というムードがある、ということですか?

酒井 イスラエルへの対抗心ももちろんありますが、今お話しに出たインドについて言えば、インドでも最近、ヒンドゥー対イスラムの衝突が先鋭化してきています。その意味では、イスラエルに対抗すると同時に、インドにどんどん先を進まれるのも嫌だという、両面から挟まれたような立ち遅れ感が非常に深刻なのだと思います。


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2006年12月4日(掲載)
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