協会の活動状況・会員からの寄稿
SYMPOSIUM_6

アメリカ・イスラム・中国  新政権の日本外交を語る
9・11から5年——激動の国際情勢を多角的に分析


6 新政権の中東外交について

 日本にとって重要な中東のことも聞きたいと思います。先ほどから、中東はガタガタしていてアメリカも手を焼いているという話が出ていますが、たとえば、こうした状況のなかでも、日本人の多くは「日本は中東ともいい、アメリカともいい、日本がやる役目はまだ一杯ある」と思っているはずです。ところが、たとえば私は今年の 3 月にドバイに行ってきましたけど、日本の商社などは皆ドバイに拠点を置いていますが、イラクの問題はイラク人に言うという具合で、日本人は入らない。韓国とかほかの国を見ると、結構ハイリスク、ハイリターンを取るようなところがあるのですが、日本はそれはやらない。たとえば、アメリカにとっては、中東のことだって自衛隊派遣だけでなく、もう少し日本にできることがあれば日米関係がよりよくなる可能性もあると思います。酒井さん、中東で日本がやれることはあるでしょうか? あるいは中東は日本をどう見ているでしょうか?

酒井 私は以前から、日本には、アメリカにもヨーロッパにもできない「中東でやれることがたくさんある」と申し上げ続けています。また、それはアメリカやヨーロッパと同じことをやって評価されるのではなく、むしろ違う形です。先ほどから議論されているように、中東あるいは今のイスラム世界にはどうしても、アメリカに対するある種の不信感がある。というより、自分たちはアメリカから「嫌われている」と思っているし、それなら自分たちも同じだというように、にっちもさっちも行かないような対立感情がどんどん進化している。でも、実は先ほどの中国と同じで、多分、別の意味ではアメリカのことを「大好き」なわけです。アメリカの文化はとても好きだし、その技術も好きなんです。
 中東の人たちは決して、白いパジャマのような自分たちの民族衣装だけで生活をしているわけではありません。カイロ大学のキャンパスなどに行きますと、それこそ「この人たちはアメリカ人?エジプト人?」と迷うぐらい、見た目も完璧にウエストコースト的な格好をしている人がたくさんいる。とくに若者の間には、そういうアメリカに対する憧れが非常に強いわけです。また、そういう意味では逆に、そうした憧れが反米感情につながってくることもある。これだけアメリカを恋慕っているのに、ちっとも振り向いてくれない。ようやく振り向いてくれたかと思ったらイスラエルのほうばかりを見ている、というような…。
 その点、日本はある意味でとてもいい位置にいる。アメリカに似ていながら、しかしアメリカほどアロガント(傲慢)では決してないし、西洋的ないい部分も持っている。そして自分たちとも共通するような、アジア的な情感も持っている。アメリカやヨーロッパに手が届かないから、もう少し近いところで日本に期待する、というところがあったのだと思う。考え方によっては、当て馬というか、本命はアメリカだけれども手が届かないから日本に手を出す、という印象もないわけではないですが…。しかし、これは日本の対中外交のときも、そういったスタンスをフルに活用しながら十分にやってきたんだろう、と私は思います。
 たとえばイランに対しても、イラン革命以降、アメリカとイランとの関係が悪くなっていくなか、日本だけはアメリカに嫌な顔をされながらも水面下では逆に、アメリカが直接対話できないイランとのパイプを持っていた。あるいはパレスチナ自治区等々が成立する以前、PLO がまったくアメリカに招聘されていなかった頃に、すでに日本はアラファトさんを呼んでいて、そこから話し合いの糸口をつくった。アメリカやヨーロッパには真似のできないことをやれるスタンスがあった。そして、その芽はまだ消えていないとは思いますが、残念なことにそういう部分は中東には伝わっていない。
 たとえば、先ほど田中さんが「日本はアメリカに言われたからでなく、独自の判断で自衛隊を出した」と言われましたが、それは伝わっていない。エジプトやそのほかの中東の国々は、今回のイラク戦争において日本は、アメリカに追随したと思っている。かつてはアメリカとある程度の距離を持っていて、だからこそお付き合いできていた日本が、本当にアメリカに行ってしまった——そういう感情を非常に強く持っています。その意味では、私は、そこを何とか払拭して、昔のようにアメリカやヨーロッパのできないことを日本がやるという、それをこれからどう建て直すかが重要だと思っています。


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2006年12月31日(掲載)
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