協会の活動状況・会員からの寄稿


なつかしいウズベキスタン人

4 年ぶりにウズベキスタンへ旅した。旅は自分たちの日常から飛び出せるというだけで面白い。そして発展中の国は4年間の違うところ、変わらないところを見せてくれた。

2 度目の旅では東のタシケントからサマルカンド、ブハラ、そして西のヒヴァまで、バスでひたすら走りぬけた。東西の長いウズベキスタンの半分以上,2000 km をはるかに越える距離を、ほとんどが水の乏しい中でしぶとく生えるらくだ草の土漠、そしてちょうど収穫の時期の綿花畑、たまにりんごなどの果樹園、そして点在する村、とにかく単調な景色の続く中、ひたすら走った。ウズベキスタンの国土の未開拓の広さと豊かさをまさに全身で感じたわけである。

4 年ぶりで変わったのは、まずかつては直行便が週 1 便、名古屋からしか出なかったのが、今や成田、関西空港から週 4 便出るようになったこと、そして、ホテルやレストランなどのレベルだ。260 万人の都会、タシケントには 5 つ星のホテルができたし、民家でも食事を出すところも出てきたり、また食事もわれわれへの配慮ができるせいか、おいしく食べられるようになった。ありがたいのは、ほとんどの人が腹を壊した前回に較べ、今回は一部体調を壊した人も出たが、ほとんどの人が順調だったこと。鍵がかからなかったり水が流れなかったりするトイレ事情あるいは観光地などの物乞いの子供たちを見ると、まだまだ厳しいものがあるが、4 年前に較べれば格段に改善されていたように思う。

「ウズベキスタンの人たちはお客が好きです。ほら、玄関の扉が開いているでしょう。見知らぬ人でも、用がなく突然来た人でも、喜んで迎えるのです」とガイドのマーシャが指差す。白く塗られた土塀の中に玄関としてくりぬかれたスペースが開けっ放しになっている。朝早くから起きて家を掃除してお客さんがいつ来ても良いようにしておくのがお嫁さんの役割だそうだ。

4 年前はフリーの時間に旧市街を散歩していたら、結婚式の前のくつろぎの場面に呼び込まれ、歓待を受けたことがあったし、若い人も朝の散歩で、地元の人の朝食を頂いてきた、という話もあった。今回も、訪れた民家の人たちの暖かい眼差し、バスのわれわれに手を振ってくれる明るい子供たちに、4 年前と変わらないやさしさを感じた。

このようなやさしさは、日本のかつての故郷を思い出させる。

かつての日本の田舎、われわれの学生時代に無銭旅行と称して、フラフラ歩いていると声をかけて家に泊めてくれる人がいたものだ。
日本では核家族が一般的になってしまったが、当地では、まだ大家族で住んでいる。
「マハラ」という長老を中心の地縁共同体が力を持っているのも昔の日本と同じ。「向こう 3 軒両隣」とか「 5 人組」とかあるいは「長屋の大家さん」のようなものだろうか。
そもそも留学生たちと話していて、彼らがやさしい気遣い気配りをして人間関係に配慮したり、苦労したりしてるのも、われわれになじむところだ。

もうひとつ、今回の旅行で、ウズベキスタンの人たちに、日本の懐かしい過去を思い起こす例に出会った。

日本語の堪能な若者と話す機会があった。日常は日本語を使うこともない仕事についているのに、私とのコミュニケーションに不自由はまったくないのに感心した。「日本語を学んでよかったと思う?」と私は問いかけた。

「自分が半年間、日本へ行って、日本の職場を経験して、自分の考えが変わりました。日本の人たちは、官僚は国のため、会社の人は組織のためにどうすればいいかを考えて行動することに驚きました。ウズベキスタンの人は、自分のためにしか働こうとしません。これでは、ウズベキスタンはいつまでも日本のレベルにはなりません。自分は日本語を学んだおかげで、国のために働きたいと思いました。」といって彼は具体的な自分の夢を語ってくれた。

多様な民族をかかえ、開発途上にある国では、まだまだ自由が束縛され若者たちには、不満が多いだろう。しかし、このごろ日本で掃き捨てられようとしている、組織忠誠心を心のよりどころとして、自分の国づくり、人生づくりの夢を追っている若者に会って嬉しくなった。当地には彼のような気概を持った青年たちが多くいることだろう。会社中心滅私奉公で一所懸命働いてきたわれわれにとって、今、自分中心で豊かさ真っただ中にある日本、弱肉強食の活力ある日本は、やや何かを忘れているような気がする。かつての日本へのノスタルジー、懐かしさとともに、ちょっと、日本にも、そしてわれわれの心の中に、まだまだ根深く残っているかつての日本人が大事にしていたものへの愛着、誇りも、ウズベキスタンの若者と話すと感じることができたのである。

(当協会・トークの会 檜山 彰)
 
2004年11月10日(掲載)
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