協会の活動状況・会員からの寄稿

旅はまだ終わらない
(私の日本百名山・山行)
私は平成8年3月27日狭心症で倒れ、冠動脈に5本のバイパスを建てる手術をして、某医師から、余命十年とまで宣告されてからすでに満7年になります。退院後、5ヶ月足らずで、主治医の忠告を聞き流し、大学の恩師、大崎先生を団長として、主として大学教授を団員とする「第7回ロシア経済研究調査団」のメンバーに無理矢理加わって中央アジアに4カ国(カザフスタン、キルギスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン)の調査旅行に出かけたことをついこの間の出来事のように鮮明に思い出します。私は「日本語と日本人のルーツ」探し(研究?)をライフワークの一つにしており、日本語と同じアルタイ語系に属する言語を話して生活している民族が住む中央アジアには以前から、一度行って、その民族の文化を実感してみたいと願っていましたので、他の団員よりはこの研究調査への思い入れは違った意味で、特に強かったと思います。ただし、前述の急病発生のため、一度は参加を全く断念していました。

手術後約2ヶ月間ほど病院のベッドの上で生活していましたので、足腰がすっかり弱ってしまい、退院後も杖をついて歩行していました。腕も六十肩の痛みで、満足に上に上がらない状態でした。私のこの哀れな姿を見舞いに来た山好きの友人Oさん(私に百名山登攀を最初に教えてくれた人)が見て、「そんな格好をしていると、もう誰もまともに付き合ってくれませんよ」と忠告してくれました。そのとき、何が何でも中央アジアに行こうと決めたのでした。行くと決心すると、直ちに、それまで勤めていた会社を辞め、杖を捨ててリハビリを始めました。そして、他人には絶対弱みを見せず、もう全く大丈夫ですとキッパリ言い切ることにしました。団長に同行の意志を伝えますと、病気のことを大変心配されていましたが、「私は病気ではありません。血管の狭窄している箇所はすべてバイパスをかけて物理的にケアし、それもすっかり完治しましたのでもう心配はご無用です」と言い張りましたので、かなり訝しがりながらも、渋々、同行を承諾してくださいました。

中央アジアから無事に帰って、まもなく、Oさんの口利きもあってか、Oさんを百名山登攀の共通の師とする、T氏から電話があり、T氏の会社の監査役として、主として当社の資金繰りを担当することを依頼されました。私は長年、某政府系金融機関に勤務していましたので、そのようなことには些か自信もありましたので多少考えた上お引き受けすることにしました。ところがT氏は百名山登攀の相手も求めていましたので、まもなく二人の百名山弥次喜多道中が始まったのでした。私は、山行の誘いを、体調を理由に断ったことは一度もありませんので、T氏が立てた計画に、何も言わず同行しました。シーズンになると、土日はほとんど山に出かけました。下山時に膝が痛んできて仕方がないことがありました。Oさんにそのことを相談すると、「山で痛んだものは山で治すのです」と、素っ気ない返事でした。とにかくあきらめないで、何か工夫しなさいと言うことだな、と悟らせていただき、以後、通勤には極力車は使わず、歩くことにし、毎日階段踏みをして、膝や股に筋肉をつけ、一方、栄養のバランスを考えながら、体重を減らす努力をしました。それからは、次第に、下山時の膝の痛みもとれて、山歩きが以前より楽になってきました。

いわゆる日本百名山は、作家の深田久弥氏がすべて自分で上ってみて、氏の独断で、第一に山の品格、第二に山の歴史、第三に山の個性等を基準にして選定したものです。

平日は貸し渋り、貸し剥がしの銀行と激しく戦い、土日祝祭日には社長と監査役の弥次喜多で山に出かけ、記録を見ると、貸し渋り等が激しかったときの方がたくさん山に登ったようでした。気がついてみたら7年弱で96座を制覇していました。そして、本年9月に貸し剥がしの激しい銀行から、面倒見の良い大手銀行への借り換えがすべて完了し、資金繰りも円滑になっていました。登山で学んだことは、どのような窮地に陥っても、決してあきらめないと言うことでした。会社の経営成功の鍵も、登山と同じで絶対にあきらめないことだと言うことでした。海図のない人生の旅も同じでしょう。

タシケント国立大学でのウズベク経済についてのシンポジウムの中で、日本に寄せられた熱い期待に対し、この国に何か貢献することをしたいと、私が素朴にしかも強く感じた思いを、初心に返って、当協会の活動の中で、私にできることをより積極的にすることによって、残された寿命の中で果たすことができたらと思う今日この頃です。
(坂田 悦夫)
2003年12月14日(掲載)
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